はじめに
この記事は 「インタビューしあう」 というテーマのアドベントカレンダーの2020年の20日目向けの文章だ。
「インタビューしあう」について
「インタビューしあう」とは@たけのしたさんが実施しているアドベントカレンダーだ。
目的は「(インタビューという)言語化する体験をして得た感覚を言語化してみる。」とされている。
私はこれを「特定形式におけるコミュニケーション時に、場の参加者にどのような変化があるのか(目的変数)、その変化要因はなにか(説明変数)の関係性を、参加者が自ら言語化することで明らかにする」ことだと理解した。
ここでいう「特定形式におけるコミュニケーション」とは以下を指す。
- 聞き手/話し手の立場が明確なインタビュー形式
- インタビュー前後の感覚(気分、印象など、ふりかえりの時に書いたものそのままでもOK)を投稿する
- そのほかは自由
「そのほかは自由」というのは形式ではないのではないかという指摘がありそうだが、「自由にしていいという形式が明示されている」という意味でそういう形式があるものとみなせる。
つまり「規定されている項目以外を実施者にて明示的/暗黙的にかかわらず決定する必要がある」ということだ。 具体的には以下のような項目を実施者にて決定する必要がある。
- 人数
- 時間
- 場所
- テーマ
自由項目の決定
自由項目の決定方法はその名の通り自由である。
しかし、「インタビューしあう」には上記項目の例示や過去記事が公開されているため、実施者の経験によってはこの情報に決定基準が大きく左右される。
例えば「時間」に関して「15分」という例示がある。
これから「1時間だと長すぎるよね?」と考えてしまうのは自然な話だ。
これには6日目の記事で@gaoryuさんも触れられている。
ここでさらに注意しなければならいことがある。
例示されていない項目の決定についてだ。例えば以下のようなものがある。
- 主導(場をリードする人)
- 目的(価値)
これら例示されていない項目は「インタビューしあう」に臨むもののインタビューに対する認識(前提・思い込み)によって決定される。さらにそれは明示されない可能性が高い。
「インタビュー」という言葉は抽象的だ。辞書を引いてもその意味の指す真意のようなものはわからない。人によって言葉の指す意味が大きく異なるだろう。
つまり、聞き手と話し手で認識齟齬が起こる可能性がある。
聞き手と話し手の認識の違いも説明変数と言えるが、変数が多いと関係を解き明かすことが難しくなる。 従って変数を減らすべくインタビューに対する認識フレームの提示を試みる。 この認識フレームを活用することで「インタビュー」が何を指しているのかを事前にすり合わせて変数を減らすことができるのではないだろうか。
なお、私の中でインタビューは1対1で行うという前提があったためその前提で読んでいただきたい。
インタビューに対する認識フレーム
フレームは「A.主導」軸と「B.目的」軸のマトリックスで構成した。軸の分類は以下の通り。
- 「A.主導」軸:3項目(A1.聞き手、A2.話し手、A3.両方)に分類
- 「B.目的」軸:2項目(B1.コンテント、B2.プロセス)に分類
- B1.コンテントをさらに2項目(B1-1.話された情報、B1-2.話された情報から導かれる情報)に分類
- B2.プロセスをさらに3項目(B2-1.変化した話し手の内面/感情、B2-2.変化した聞き手の内面/感情、B2-3.変化した関係性)に分類
結果、図1のように15のマスが定義できる。
マスの中身にどんな名前をつけるかは自由だ。
人によってしっくりくる名前が違うと思う。
インタビューと言われたときにイメージするマスも範囲もバラバラだろう。
参考までに私の認識を記載する。
私は単にインタビューと言われれば1を想像する。
1は聞き手が主導し、話された情報自体を目的とするもので、インタビュー記事や映像に使われる。(図2')
同じく聞き手が主導する2、3、4を見てみよう。
2は話された内容から導かれる情報を目的とするもので、聞き手が知り得なかったインサイトを話し手の中から見つける用途で使われる。ヒアリング(業務ヒアリング、要件ヒアリング)という言葉がしっくりくるが、デプスインタビューなどもこれに当たる。
3は質問によって変化した話し手の内面/感情を目的(価値)とするもので、カンセリングやコーチング、ソクラテス式問答法などが当たる。
4は質問すること、質問の回答を聞くことで変化した聞き手の内面/感情を目的(価値)とするもので、話し手を通して自己を探求したり、話し手から直接エネルギーをもらったりするものと言える。
話し手が主導する場合を見てみよう。(図2'')
6は話された情報自体を目的とするもので、情報伝達(口伝、代理執筆)に使われる。聞き手が手綱を握れていないヒアリングもここに分類される。
7は話し手の頭の整理をするイメージだ。いわゆる壁打ちというものになる。
8は話したことによって変化した話し手の内面/感情を目的(価値)とするもので、直接的な感情の発露の場合、ストレス発散や自己満足という表現が適切だろう。話したことによって自分の価値観や感情に気づくことがあると思うが、このようなメタ認知が発生している場合は内省と呼びたい。
9は質問させたり、話した内容によって引き起こされた聞き手の内面/感情の変化が目的(価値)とするもので、ある意味洗脳と言えるのではないか。悪用したら壺を買わせるくらいできそうな気がする。逆に、聞き手があえて話し手に主導を渡して聞き手の内面/感情の変化を期待する場合は受容という表現もできるだろう。
5、10については聞き手、または話し手どちらか一方が場を主導し(意図を持って)コミュニケーションを行い、変化した関係性を目的とするもので広い意味で関係構築とした。(図2''')
聞き手、話し手いずれもが主導する場合(A3.両方)だが、コンテント(情報)により価値を置くもの(11、12)を会談/対談とし、プロセス(内面、価値観、感情など)により価値を置くもの(13、14、15)を対話とした。(図2'''')
インタビューの実践
今回のアドベントカレンダー執筆にあたり、インタビューの場を2回設けた。
以下それぞれについて記載する。
1回目:聞き手
説明変数
- 日時:2020年12月11日(金) 16:50-17:50
- 人数:1対1
- 場所:対面(コワーキングスペース)、声が聞こえる範囲に他者はいない状況
- テーマ:人生を振り返ってみての今後について
- 主な問いかけ:
- 今の仕事内容は?
- 楽しい?
- 主体的な選択の結果の今がある?
- 今後どうしたい?
- 自分の強みをどう認識している?
- 主導:A1.聞き手
- 聞き手目線の目的:[B1-2.話された情報から導かれる情報]、[B2-2.変化した聞き手の内面/感情]
- 話し手目線の目的(推測):[B2-1.変化した話し手の内面/感情]
- 主導、目的のすり合わせ有無:無
- ふりかえり:「今の気持ちは?」をインタビューの前後に付箋で記入。インタビュー後に前後を双方共有。
- その他:飲み物あり、聞き手がノートにメモを取りながら進行。
目的変数(振り返り結果)
[聞き手]
インタビュー前
- 弱っている状況で、インタビューを通して元気をもらえないかと考えていた
インタビュー後
- 仕事の内容を聞きすぎてしまったと感じた(本来はなぜそう感じるのか、どういう物の見方をしているのかなどをもっと深掘りしたかった)
- 自分に当てはめたときどうなのか解釈できていないが、話し手が楽しそうにしているのを聞けて元気が出た
- 話し手のような人と定期的に話す時間が欲しい
[話し手]
インタビュー前
- うまく人生を振り返えられるとよいな(自分ではあまり気にしていなかったけど大事なものとか)
インタビュー後
- 重きを置いていることを改めて感じた。また、恐怖に感じていることがわかった。
2回目:話し手
説明変数
- 日時:2020年12月23日(水) 20:00-21:00
- 人数:1対1
- 場所:zoom(話し手:自宅、聞き手:職場)、話し手の声が聞こえる範囲に他者はいない状況、聞き手不明
- テーマ:自分の強みってなんだろう
- 主な問いかけ:
- 強みを活かして稼いでると思う人は誰?
- 何を達成したいの?
- 何かを達成できたと思っている?
- 強みはどうやったら認識できると思ってる?
- 主導:A2.話し手
- 聞き手目線の目的(推測):[B2-1.変化した話し手の内面/感情など]
- 話し手目線の目的:[B1-2.話された情報から導かれる情報]、[B2-1.変化した話し手の内面/感情]
- 主導、目的のすり合わせ有無:無
- ふりかえり:インタビュー後に以下3つの問いの回答を共有。
- 1.話すとき/聞くとき何を気にして話して/聞いていた?
- 2.インタビュー中に相手の態度や自分の心境とか気になったことある?あった場合は、それは何があったから気になった?
- 3.インタビュー前後で何か変わった?(相手の印象やテーマに対する気分)変わった場合、それは何があったから変わった?
- その他:聞き手はPCにメモを取りながら、話し手は手元でノートにメモを取りながら進行。聞き手の仕事の合間に実施。
目的変数(振り返り結果)
[聞き手]
1.話すとき/聞くとき何を気にして話して/聞いていた?
- 興味があるテーマなので自分が離さないように気をつけた
2.インタビュー中に相手の態度や自分の心境とか気になったことある?あった場合は、それは何があったから気になった?
- グッと考え込むタイミングで真剣な気分になった
3.インタビュー前後で何か変わった?(相手の印象やテーマに対する気分)変わった場合、それは何があったから変わった?
- 話し手への印象が変わった
- ネガティブ、慎重を常に伴っている、ダークな印象が濃くなった
[話し手]
1.話すとき/聞くとき何を気にして話して/聞いていた?
- 頭の中に引きこもっていた
- 自分は何に悩んでいて、どうしたいのかを考えていた
2.インタビュー中に相手の態度や自分の心境とか気になったことある?あった場合は、それは何があったから気になった?
- 聞き手の顔をほぼみていなかった(何もみてなかった)
- 時間が気になっていた(仕事の合間だったし、なかなかない内省の機会なのでたくさん話したいという葛藤)
- 頭を整理できる効果的な問いをもらえるにはどうしたらいいか、問いが来ないか、と考えていた
3.インタビュー前後で何か変わった?(相手の印象やテーマに対する気分)変わった場合、それは何があったから変わった?
- 自分とはこうあって欲しいという思いに気づき、実際の自分はそうでないことに気づいた
- もともと考えていたことに自覚的になれたし、行動するべきだと思えた
今振り返って思うこと
まず率直な感想として今回の「インタビューしあう」をやってよかったなと思う。 自分にはこういう場が必要だと改めて感じた。 インタビュー直後も満足感があったが、この記事を書くために振り返ったときになんとも言えない多幸感を感じて涙が出た。 オキシトシンやらエンドルフィンが脳内で分泌されたのだろう。
次に説明変数についてだが、今回挙げたものはとりあえず思いつくものだけだ。 この他に聞き手と話し手の元々の関係性、前提知識、心理状態などによって目的変数が変わってきそうだと感じた。 そういう意味で補足しておくと私からみた今回のインタビュー相手は2人とも心を許せる相手であり、私の心理状態としては弱っている、自信がない、自己肯定感が低いという状況だったと思う。 元来外向きに広がるより、内向きに答えを探しに行く傾向がある。
今回は聞き手の時も話し手の時も自分が主導する形でインタビューを進行した。 次は相手とインタビューに対する認識フレームを共有した上で、相手に主導を渡したインタビューを試行してみようと思う。
おわりに
インタビューに対する認識フレームを作ってみたもののすっきり理解できるには程遠い状態である。
軸の出し方、分類、話し手と聞き手どちらからみた場合の認識(名称)なのかなどがしっかり整理できていないことが原因だと考える。これらを一緒に整理してくれる有志求む。